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  • Y. Nakamura

第8話:社内承認

さて、海を渡った「Heavenly Seven」は、

世界で最も栄誉ある音楽コンクールのひとつ「セロニアス・モンク国際ジャズコペティション」(通称モンクコンペ)で、その年の最優秀作品に選ばれた。(受賞時の驚愕ぶりは第1話「9時17分」をご覧ください。)

厳しいリハーサルとレコーディングを乗り越えてくれたメンバーへ、「優勝したよ!」とメールしても「またまたそんなご冗談を……」みたいな返事が返ってきてしまった。

僕は狼少年だったっけ……?

いやいや違うよ、マジです。

時間はかかったが、何往復ものメールにて信じてもらうことが出来た。

次の問題は、

「モンクコンペで受賞したらどうすりゃいいの?」

考えた末、サラリーマンの僕達はまず、

9月末の授賞式に出席するため、有給休暇を申請することにした。

これまで日本から出たことも、出る予定もなかったメンバーは、パスポートの申請から準備を開始。

僕はその前に、

約束していた通り(第5話「飛行機代だします。」をご参照ください)、メンバーの飛行機と宿の手配を。

僕の分は、優勝の副賞と言っていいのだろう、

モンク委員会が賄ってくれた。

「さてと、有給申請を……」

といきたいところだが……

僕の場合、書類だけじゃ済まされない。

なぜなら

‟ヴィトンのバッグ10個分?程の賞金をもらってしまったから”

この賞金を受けとるためには、会社からの副業許可がなくてはならないのだが、副業の申請などそもそもしておらず。

当時働いていた会社(サラリーマンとしては最後の会社になるわけだが)は外資系で、副業をするには、

上司(部長)の承認

 ↓

その上司(アメリカ本社)の承認

 ↓

日本のコンプライアンス部長の承認

これらが必要だった。

マズイなとは思ったが、腹をくくらなければ。

とりあえず、部長のもとを訪ねて、

「会社に隠れてコソコソとすこーしだけライブ活動をしていまして……」と切り出し、

「そうしていましたら、これこれこういう賞を受賞しまして……」と報告した。

すると、

「それはすごいね、おめでとう!」

と喜んでくださった。

良かった……一安心。

さらには、部署内の人を集めて、

「中村さんがこれこれこういう賞を受賞しました」と簡単な報告会を開いてくださった。

そしたらその直後、同じ部署の方から

「そんな曲を作っている暇があるなら仕事しろー!

プロとしてこの仕事を全うする気がないならやめちまえー」的な社内チャットがきた。

「ごめんなさい。音楽は趣味でやっています。仕事もがんばります。」

という返信をして、その場は事なきを得た。

次の日に部長から、

「会長に賞をとった事を報告しなさい」とのことだったので、

うちの部署の隣にあった会長室の扉をノックする。

その会長とは、全世界にオフィスがあるグループ内でもかなりの権威をお持ちの方。

それでいて気さくでおられ、

平社員の人や派遣の人にも最高級のフレンチやイタリアンをご馳走してくださるとても優しい方。

しかもオペラに精通していて、大の音楽好き。

また、その年のモンクコンペの特別ゲストである、第64代アメリカ合衆国国務長官マデレーン・オルブライト女史(アメリカ初女性国務長官)とは、蛍雪の友ということもあり、

僕の受賞の報告を大変喜んで聞いてくださった。

(オルブライトさん、授賞式でドラムをご披露。味のあるドラムだったなぁ。)

その会長からは、

僕が会社を辞める(というよりもほとんど追われるように逃げ出した)際も、

「才能とやっている仕事との間で相当悩んでいた様子は常に感じていました。これからも応援しています。」

という暖かい内容のメッセージをいただいた。

いろいろと思い返していると、熱いものがこみ上げてくるので、

今回はこのへんにしておきます。