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  • 執筆者の写真Y. Nakamura

第3話:ジャズの作曲とは?

更新日:2018年8月3日



モンクコンペティションに応募する為に曲を書き始めたわけだが、無謀な挑戦にも関わらず、欲がでてきてしまって、どうせやるならなるべく受賞の可能性を広げたいと思い始めるようになった。

まずは使用する楽器を決めなくてはならない。

募集要項には、使用できる楽器はピアノ、ベース、ドラム、ギター、サックス、トランペットとある。けど、どの楽器を使って編成を組んだらいいのか全くわからない。 なるべくいろんな楽器を散りばめたほうが良いのか、絞って小編成のほうが良いのか。審査員の「受け」が良いのは、果たしてどのような編成なのか、皆目見当がつかない。

ちなみに、その年の作曲のお題は「ドラマーの創造性を引き出す曲」というものだった。

んー、参考にならない……。

そういう時は一人で悩んでいても時間の無駄である。応募要項にモンクコンペティション委員会の電話番号が書いてあって、確か質問があれば受けつけているとの趣旨の事が書いてあった気がした。

日本時間の夜中、ワシントンDCの昼前に応募要項に載っている電話番号に電話をかけてみることにした。世界一の大会に応募するという無謀な挑戦であったが為に、チャレンジャー魂だけは妙に発揮されていた。 スマホからワシントンDCにかけてみるとけっこうあっさりつながった。自分が作曲部門に応募する旨を伝えて、楽器の編成について質問があるという趣旨の話をする。正確にどう言ったのかは忘れてしまったが、多分こんなことをたずねたと記憶している。

「応募要項にはいろんな楽器が使えるって書いてあったけど、ぶっちゃけどんな編成が好まれるの?」

回答はいたってシンプルだった。

「Smaller is better. (小さい編成であればあるほどいいよ。)」

Simple is the best. みたいな感じなのかな?とふと思う。

過去にはジャズオーケストラを応募段階で雇っていた作曲家の人もいたという事も教えてくれた。(その方は、グラミー賞もとった事がある著名なジャズ作曲家の方であるが、過去の受賞者の中に名前がないので、その時に雇ったミュージシャンのギャラはパァになってしまったのかなあと推察する。)

モンク委員会的には、ミュージシャンの手配もあるし、編成が大きければ大きいほど準備が大変らしい。

色々とおしゃべりをしているうちに、作曲部門の選考過程での興味深い裏話的なことを電話の向こうの方はシェアしてくれた。 毎年の作曲部門の選考過程で、

「ジャズの作曲とは何か」

という事が、たいそうな議論になるそうである。

けっこう丁寧に解説してくれて、例えば、ということで「マイルス・デイビス作曲のブルー・イン・グリーンという曲があるだろう?あれってメロディーの旋律とコード進行(和音のコト)しかないんだけど果たしてそんなのが作曲と呼べるのだろうか、ということが話題になるんだよ。」と。

なるほどなあ、と思った。

クラシックの世界では、演奏される一音一音が楽譜の中に全部記載されている。聴こえてくる音は全て楽譜を再現したものだといってもよい。 それに比べてジャズの曲というのは、メロディーとコード(和音もしくはハーモニー)の指定があって、演奏者はそのコードに従っておのおのの想像力/イマジネーションで曲を創りあげていくというスタイルである。 簡単に言えば、一から十まで楽譜に載っているクラシックに対して、一ぐらいは楽譜にのっているけど、あとはプレイヤーにお任せします、というのが、ジャズの世界である。

作曲者の意図と作業量的には、クラシックの方が圧倒的に多いと見るのが普通だろう。実際にビジュアルでみるとわかりやすいので、セロニアス・モンク作曲の「`Round About Midnight」という曲をクラシック的アプローチによる楽譜とジャズ的アプローチによる楽譜の例示を今回のストーリーのカバー写真に使わせていただきました。(最初の楽譜がクラシック的、次の楽譜がジャズ的)

ワシントンDCへの電話はだいぶ脇道にそれてしまったが、意図していなかった事がたくさん聞けて、とても興味深かった。

コンペティション対策の作曲術としては、以下の二点の事実がわかったような気がした。

①編成はなるべく小さいほうが良い。

②ジャズの作曲ってメロディーとコードだけなの?という疑問は、議論の的になる      ⇨ということはもう少し作曲者としてベースラインとかドラムのフィールを細かく指定すればいいのかな?

何もわからずに曲を作り始めるよりはこれはけっこう重要な情報を得られたぞ。 夜中に国際電話をかけてよかったなぁ、と自分で自分を少しほめたのでありました。

最後にお礼を言って電話を切ろうとすると、「ところで 私は、モンク委員会のブラウンという者だよ。」と告げられる。

数ヶ月後にこのブラウン氏から受賞の事実を告げられることは、まだ知る由もない。

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