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  • Y. Nakamura

第11話:「音」を「楽」む。

受賞式前の大会のメインディッシュについて、触れ忘れていた。

大会の目玉はなんといっても……

ファイナリスト達による演奏のバトル。

音源審査で受賞が決まった僕らとは違い、生モノの一発勝負。

張り詰めかたが全く違う。

その年はドラマー達による熱い戦いが繰り広げられた。

世界中の応募から、10人のセミファイナリストが選ばれ、

(このセミファイナリストに選ばれたことで、地方のテレビ局に出演する方も。)

さらにその中からセミファイナルでの戦いを終えて、3人のファイナリストが選ばれた。

僕達は自分たちの演奏の前に、この3人のファイナルステージを目のあたりにすることになる。

とはいえ、「ジャズドラム」のこととなると、僕にはチンプンカンプン。

我が“ツーリスト・トリオ”のドラマーであるカテキン君の話だと、

その3人の中では「ジャスティン・ブラウン」という人が、オグリキャップばりの大本命だという。

「ほぉ、ジャスティン・ブラウン。大本命。なるほど。」

などと思いつつ、ファイナリストたちの熱戦を、完全に「心ここにあらず」の状態でながめる。

というのも、彼らの戦いが終わるとすぐに僕らの出番がやってくるのだ。

やはりこの広いコンサートホールで、大勢の観客とオールスターの前での演奏となると、緊張感がハンパない。

そして前章でも書いたとおり、自分の演奏はほとんど覚えていないのでした……。

ドラムの演奏技術のことはよくわからないので、結果だけ。

……

大ドンデンガエシがおきました!

サラリーマンが作曲賞を獲るほどのドンデン返しではないが……。

大本命が敗れた……。

会場がざわついた……。

プレイヤー部門の優勝者は「ジェイミソン・ロス」。

ドラムのことはよくわからない(何遍もすみません)が、横で聴いてて、わかったことが一つある。

「楽しそう」

考えてみれば、「世界一のドラマーの称号を得られるかもしれない大舞台」って、楽しむことはなかなか難しいはず。

しかし、ジェイミソンから強く感じたのは、

心から「音」を「楽」しんでいる

ということ。

今になってようやくわかるコトなんだけど、それって音楽の原点なんだよなぁ。

どんなに上手でも「音楽」になっていないプレイって、「音」を「楽」しむコトを忘れているのかもしれないなぁ。

その日の公演後に出演者のための打ち上げ(ハービー・ハンコックもいましたよ)が催されたが、僕は人見知りで奥手のため(!)、ジェイミソンとは話せなかった。我が“ツーリスト・トリオ”のドラマー・カテキン君は持ち前の社交性を発揮してジェイミソンと楽しくお話をしたみたい。

だから心の中でつぶやいた。

「ありがとう。ジェイミソン・ロス」

というわけで今回のカバー写真は、

「受賞後のジェイミソン・ロス」なのでした。